経営者のお悩み 信託制度を利用した”事業承継”

 身近な街の法律家 行政書士の任田です。
今回は、経営者の方向けに1つの提案として信託制度を利用した事業承継を記載していきます。

経営者の方がある程度の年齢になった時に、当然検討されるのが事業承継です。
生前に例えば息子さんに代表権を譲ったり(生前贈与)、遺言書で明記するのが多いかと思います。
そこで今回紹介する「信託制度を利用した事業承継とはどんなものなのか?」比較しながら見ていきましょう。

事業凍結リスクを回避せよ

 事業承継の主な目的は、自社株を後継者に引き継ぐことです。
この自社株を引き継がせることに難しさがあり、経営者の方はわかると思いますが
自社株が会社の実権(議決権)を握ることになりますよね?

もし、事業承継の対策をすることなく死亡し、後継者以外の相続人に遺産分割で議決権が分散してしまうと
どうなるでしょうか?
考えただけで怖いですよね。
事業に関して議決ができず、事業運営に多大な影響がでることになりかねません。

では遺言書で「自社株を後継者に全て渡す」と明記していた場合を考えてみましょう。

この場合、遺留分の問題がどうしても残ることになりますし、

遺言はそもそも死亡してから効力を発揮しますので、
認知症を発症した時や事故、病気で倒れた時は、経営権があるにもかかわらず

・株式の議決権行使ができない(株主総会で議決できない)

・社長交代、役員変更ができない(人事権が動かすことができない)

・代表印が押印できない、決算処理など会社の重要な決裁ができない)

というような、事実上の”事業凍結リスクが起こってしまいます。

「もし、そうなったら成年後見人がやってくれるのでは?」と思う方もいるかもしれませんが
成年後見制度は、財産管理や身上監護を目的としているので、自由に議決権行使をするのは難しいでしょう。

以上のことを考慮すると、認知症対策も含めた事業承継が必要になってくるのは必然と言えます。

事業承継信託の利用

 さて、事業承継には2つの側面があります。

・経営の承継(経営権を後継者に渡す)

・資産の承継(会社という資産を後継者へ贈与・相続)

この2つの承継は社長の死亡により、後継者へ相続することはできますが
存命のうちで、認知症の場合は「経営の承継」ができなくなる場合があります。

それを避けるために”事業承継信託”の出番となります。
事業承継信託では、社長と後継者の間で信託契約を結ぶことになります。
契約により、委託者(社長)が受託者(後継者)に議決権の行使権限を託すのです。

とは言え、まだ「後継者に託すのは早いな」とか「まだまだ自分で経営判断はやりたい」
と思う社長もいるでしょう。
そのような場合には、指図権を委託者(社長)に持たせておくことで、
信託契約後も実質的には経営を行うことができます。

また別のメリットとして「受益者連続信託」を利用すれば、遺言ではできなかった
受益者として後継者を順番に指定しておくこともできます。

例えば、「自分の死後に長男に自社株を承継する。
長男が死んだら次にその子供に承継する。」
というような感じで、第2、第3の受益者を決めておくことができます。
このように信託を組むことにより、経営の空白期間なく事業承継をすることができるようになります。

自己信託の利用

 信託の中でも、委託者と受託者がどちらも『自分』なのが自己信託です
通常の信託であれば、委託者と受託者の間で信託契約を結びます。
しかし委託者も受託者も自分のため、単独の『意思表示』のみで成立するのが特徴です。

信託制度では、原則として課税がパススルーとなります。
*詳しくは税理士さんにお尋ねください。

委託者から受託者に財産の移転があった場合は譲渡となりますが、
課税関係はパススルーとなるため、委託者から受益者に財産が移転したとみなされます。

そのため、受託者に課税関係は生じません。
また、自益信託の場合には委託者=受益者となり、
信託行為があった場合でも委託者に譲渡所得が課税されることや
受託者に何かしら課税されるということはありません。

従来から贈与税対策として行われていた
「多額の借入金を起こし、株価を下げて会社を引き継ぐ」
ということをせず、会社の価値を下げないまま引き継ぐことが可能になりました。

ただし、信託開始時は委託者=受益者、
相続開始時に受益者が後継者になるというような信託契約を行っている場合、
生前中に贈与税が課税されることはありませんが、
相続時に契約によって受益者となった後継者には
信託受益権がみなし相続財産となり相続税の課税対象となる
ことには気を付けておいてください。

まとめ

 いかがでしたでしょうか。
事業承継を検討する際に、遺言だけでなく、選択肢は多く持っていた方がベストな選択ができると思います。
自分に合った選択ができるよう専門家の意見を交えて検討してみてください。

⇒当事務所のホームページはこちら

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
少しでも皆さまのお役に立てれば幸いです。では。

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